津軽十三湖しじみ亭奈良屋
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夏の風物詩、十三湖のしじみ漁
[十三湖の風保存版](当店発行の情報誌『十三湖の風 第4号』より)

湖上にきらめく無数の波しぶき

 湖に静かに浮かんでいた無数の船が午前7時の合図とともに一斉にエンジンを全開にして漁場に向って突進し始めた。波しぶきが体に激しくぶつかってくる。晴天の天候にもかかわらず朝の湖上の風が冷たい。秋田さんのしじみ漁船「宝幸丸」の前後左右を他のしじみ漁の船が激しいしぶきをあげながら行き交っている。そのしぶきは朝日をあびてキラキラと輝いている。きれいだ。
 今日はしじみ漁を続けて30年の秋田弘文さんのしじみ漁に同行させてもらった。ここ津軽十三湖には車力村と市浦村の二ケ所の浜からしじみ漁の船が出る。漁期はこの二つの漁協で厳しく決められていて毎年4月10日から10月の15日までで時間も午前7時から午前11時までに限られている。また一日の収穫量 も規格サイズのしじみ箱2箱までと制限されているのだ。キロ数にして大体145キロ前後だそうだ。漁を終わって浜に帰る前に指定された場所で漁師達が当番で担当している検認を受けなければならない。決められた漁期以外は各漁師ごとに決められた自分だけの区域で漁をする。この場合は時間や収穫量 は自由である。

 やがて湖上の船のエンジン音が軽やかになりはじめた。それぞれに自分で決めた漁場に着いたのだ。どこで漁をするかはそれぞれの漁師の勘なのである。限られた時間内にできるだけ早く制限一杯のしじみを収穫できるかどうかはこの勘による判断次第なのだ。
 秋田さんの船もスピードを緩めた。そして行き交う船の漁師達に手を上げて挨拶している。そうしながらも船尾で作業を始めている。長い棒の先にステンレスで作られた四角い籠が取り付けられている。それは熊手に籠がついているような形をしている。「ジョレン」というその籠を船尾から湖底に降ろし船を走らせるのだ。秋田さんは船をある時は真直ぐにそして次ぎには大きな円を描くようにゆっくりと湖上を走らせながら「ジョレン」で湖底をすくって行く。この走らせ方が収穫量 を大きく左右するのだそうだ。これも長年の勘だという。数分後船のスピードを緩めると「ジョレン」を引き上げた。湖底から引き上げたその中にはたくさんのしじみが入っていた。しじみと混じって他の貝や小さすぎて出荷できないしじみがある。すぐにそれを船上で「から落とし」というステンレスの細い棒が格子に組まれた八角形の筒状の籠に入れられる。「から落とし」は回転しながら出荷できるしじみだけを選びそれ以外のものは湖へ戻されていく。「ジョレン」にしても「から落とし」にしても車力村の漁師が考案したもので今はほとんどのしじみ漁で使われているそうだ。
 回りを見渡すとどの船も同じような作業をしている。どの船も二人で作業をしているが一人の船もいる。十三湖全体でのしじみ漁の船は160艘以上あり、今日も100艘以上の船が湖上に出ているとのことだ。ほんとに賑やかな湖上である。船上で作業をしながら湖底をすくっていくのだがお互いの船が接近しないようにうまく操船をしている。
 南の方へ目をやると岩木山が湖上の上に浮かぶかのように横たわっている。津軽富士と呼ばれるだけあってその山容は美しい。湖の南側にその麓から流れ来る岩木川の河口がある。この河口周辺は十三湖特産の大粒のしじみが採れるところである。しかしこの時期はここでのしじみ漁は禁止されている。ここで漁が解禁されるのは7月から8月の限られた期間である。そして船からの「ジョレン」の使用は禁止され船から降りて手作業で湖底をすくうのである。夏の暑い日のこの作業は想像以上に大変らしい。暑い太陽の陽射しが湖面 に反射して体に照り返すのだ。また一日の収穫量も30〜40キロまでと決められている。大変な作業であるため河口の漁には出ない漁師もいるとのことである。

▲しじみ漁歴30年の秋田弘文さん

▲十三湖へ注ぎ込む岩木川。遠くには権現崎が見える


▲午前7時とともに一斉に漁場へ向う

▲漁場を決め、各船が漁を始める


▲「ジョレン」をひきあげる

▲「から落とし」で選別




▲手作業で丁寧に選別する




▲近くの展望台から岩木川河口を眺める
 湖の西端にはしじみ亭奈良屋の姉妹店「はくちょう亭」の白い壁が見える。そしてその手前の湖上にも無数のしじみ漁の船影が見えている。作業を眺めながら船上にあった木の棒を湖の中へ差し込んで見たらすぐに湖底にぶつかった。水深は浅い。恐らく胸当たりであろう。十三湖はほとんどがこの程度の水深なのだ。大きな船はこの湖では使えない。みんな小さな漁船での操業しかできないのである。
 北西には日本海への河口に架かる十三湖大橋が、北の遠くには日本海越しに権現崎が見えている。権現崎の手前下にはイカの港、下前漁港がある。また十三湖大橋の右手には中ノ島の松林が見える。やや北東よりに津軽半島の山々が連なりその手前の湖近くの丘に道の駅「トーサム」の建物が太陽に輝いている。(いずれも本号にて以前紹介)  十三湖周辺の景色に見とれている間も秋田さんの漁は続いている。「今日はよく採れる。勘が当たったようだ」と言いながら「ジョレン」を湖底から引き上げている。やがて二つのしじみ箱が一杯になり始めた。時計を見るとまだ午前9時20分である。終了制限時刻の11時までの1時間半前である。「ボラが入ってきた」と言いながら一匹の魚を掴み上げている。「ジョレン」のなかにはたまにいろんな魚が入ってくることがあるそうだ。そういえば先程から船が走っている途中船の近くをたくさんの魚が飛び跳ねていた。一杯になったしじみ箱に木蓋をして甲板を洗い始めた秋田さんの漁は終わったのだ。周囲の船はまだ操業を続けている。秋田さんの船がその中を突然エンジンを全開にして猛スピードで走り始めた。その様子は誇らし気である。
 浜に向って一直線に進む船の上にしぶきが襲ってくる。やがてスピードを緩めゆっくりと進む先の岸辺には2〜3人の男達が待っていた。「ここで検認してもらうのだ」といいながら船倉のハッチを開けた。違法操業をしていないかどうかを検査してもらうのだ。検認を受けた秋田さんの船は浜に着いた。すぐに車で数分の作業場に運ばれ「から落とし」で一応は選別 されたしじみを水槽の中で再度選別をするのだ。

 *   *   *

 この日は晴れていたものの「やませ」というこの地方特有の冷たい東風が湖上を吹いていたがやはり10月ともなると湖上には厳しい寒さが訪れるという。風物詩にも思える岸辺からのしじみ漁も漁師達にとっては厳しい自然との戦いなのである。
 十三湖を訪れることがあれば是非沖に浮かぶしじみ漁の船に目を注いでもらいたい。岸辺とは違うもう一つの十三湖と津軽が見えてくるはずだ。

 



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